子育て中のママは、子どもがいなかった生活からすると、
膨大な今までにはなかったような感情をたくさん経験します。
妊娠出産という怒涛のような身体の変化、
慣れない赤ちゃんのお世話、睡眠不足やホルモンバランスの変化、仕事と育児の両立・・・
現実的な外側の部分が大きく注目されがちですし、
それも大事な視点です。
けれど、目に見える変化に加えて、
目に見えないところ、心の中でも大きな変革が起こっています。
心のことは、周囲からも見えず、見落とされがち。
ママ自身や、周りの人たちにも、
これだけ大変な心の作業をしているんだよ、
という理解の目や労いの目が広がるといいなと思います。
新しい自分になること
アメリカの乳幼児精神医学者のダニエル・N・スターンは、
女性が母親になる心理的なプロセスを描き出しています。
母親になるということは、自分の延長線上で母親の役割が付け加えられることではなく、
これまでとは質の異なった、「新しい私」が誕生することだと言っています。
赤ちゃんを授かると、それによってある期間、何を考え何を恐れ何を願い、どんなことを空想するかが決まってきます。それは、感情や行動に影響を与え、基本的な感覚や情報処理のシステムを強めさえします。子供をもつことで好みや喜びは変化し、価値観は組み変わります。それはあなたの過去の関係すべてに驚くべき影響を与え、最も親しい繋がりを見直させ、人生における自分の役割を定義し直せるのです。・・・
母親になると、あなたには必然的に母としての心、すなわち母性が生まれ、それはある期間、人生の道すじを示す北極星のように作用するでしょう。これは単にあなたの精神生活が焼き直されたものではなく、それもあでの秩序と並行して存在することになるまったく新しい秩序なのです。・・・
母性に伴う特別な心の秩序が、新たにあなたの自身の一部として刻まれて、初めは重点的に、のちには必要な時だけ活躍するようになるのです。
引用元:『母親になるということ 新しい「私」の誕生』 ダニエル・N・スターン他 著 北村婦美 訳
例えば、お気に入りのバックにキーホルダーを新しくつけたよ、みたいなことではなくて、
古着をリメイクして、新しい自分にぴったりくるカバンを自らクリエイトしていく、くらいのことで。
一旦、自分というものの素材を分解して、良いも悪いも活かしながら、アイデンティーをもう一度作り替える、
そのくらいの大変革が、ママの心に起こっている。
調べると、離婚家庭の約7割が、一番下の子が5歳になるまでに離婚しているそうです。
おそらく、子どもが0歳から5歳の時期のママに、自分の心の変革とともに、
パートナーシップの問題、就労の問題、母親としての自分の問題、
いろんな問題がてんこ盛りになっている・・・
そして、なんと、3人に1人が「母親にならなければよかった」と思ったことがあるというデータがあると。
多くのママたちは、「子どもを愛している」にも関わらずです。
ある意味で、大変な育児に直面して、自然な感情のようにも思いますが、
注目なのは、このことを口に出してはいけないと感じている人が多かったということ。
なんと辛い現状でしょうか。
日本の、母親とはこうあるべしという文化的圧力のためなのか・・・
社会は、人知れず、苦しい思いをしているママたちで溢れている。
もっともっと、この心の大変革の時期に、ママたちの心の支えがあれば、
一生懸命に小さな子を育てるママが、誰よりも安心して笑顔でいられるそんな社会になれば、
子どもたちも幸せになり、家族が笑顔になり、
社会の豊かさに繋がっていくはずです。
ママの心の中では、どんな変革が起こっているのか、少しだけあげてみます。
「娘」から「母親」になる
妊娠、出産を経験すると、
自然と、自分の母親もこうして、妊娠や出産を経験してきたんだ、と身をもって知ることになります。
紹介した著者のダニエルさんは、自分自身の過去に急速に関心が高まる「過去の再活性化」
が起こるとも述べています。
思い当たりませんか。
私はすごく思い当たりました。元々、母親との心理的な距離が近すぎたからなのかもしれませんが。
母親との距離が、遠かった人は、あまり目立たないかもしれないですが。
そして、浮上してくる問題は、「私は、自分の母親のような母親になるのか」という問題。
ここを整理していくという心の作業が、自ずと起こってきます。
私はこんなふうに育てられて、こんな娘だったよという記憶の中で、
新しい私という中の「ママ」の軸を作っていくために、取捨選択をしていくということが出てきます。
そこで、スムーズに折り合いをつけられたり、自分なりに理解したり選び取っていけるといい。
けれど、過去に圧倒されてしまったり、心の作業を進めることが難しい場合もあって、
さまざまな葛藤や負の連鎖が、
自分の子ども世代にも受け継がれていってしまう場合も。
夫への見方が変わる
ママになると、他のママさんや、あるいはネット上などで、
ちょっとした育児あるあるエピソードを誰かと共有するだけで、
ホッとしたりすることありませんか。
育児経験のある他の女性から認められたい、知りたい、安心を得たいという思いが強まるというのは、
どうやらママの自然現象のようです。
一番身近で支えてもらいたい夫は、異性なので、
本当に安心したいことや知りたいことは、夫と提供することはできないというジレンマが出てくる。
ホルモンバランスの変化もあって、ガルガル期とか、産後クライシスと呼ばれるような現象もあるので、
夫との関係には、大きな変化や障壁が出てきます。
そして、ママさんが、これまで同性の人とどんな人間関係を築いてきたか、どんな距離感だったか
ということも、より現れてきたりもする。
ここで、他の女性たちと、なんとなくゆるくでも繋がりを持てれば、ラッキーだけれども、
もしも孤立してしまったら・・・
距離が近すぎたりしてトラブルやストレスになれば・・・
不安や不満の向けどころは全て夫、になってくるかもしれません。
さらに、今までの「夫として」ということだけでなく、
目の前の我が子の「父親として、この人はどうなんだろう」という視点が、
夫に対して出てくるという、大きな変化も起こってきます。
仕事をどうするかの決断
ほとんどの女性は、妊娠出産とともに、自分の仕事をどうするかに向き合う必要が出てきます。
すぐに仕事に復帰する、しばらくは休むことにする、
どちらにしても、キャリアの断念、子どもとの時間の喪失、
何らかの代償は払うことになります。
一人一人違う価値観、家庭や経済状況から、
ママは自分なりの仕事との向き合い方を選んでいくことになる。
どんな決断をすることにするとしても、
そこには、その人なりのストーリーを描く作業が必要になります。
そして、家庭や社会で求められているものとの折り合いを付けていくことになります。
私たちは、成長する過程で、学校の入学卒業や進路選択、
社会に出るときの職業選択、
それぞれの節目で、悩んだり葛藤したり、時には挫折や失敗がありながらも、
自分らしさを構築してきています。
女性は、妊娠出産、赤ちゃんのお世話という大仕事をしながらも、
並行して、もう一度、ママとして自分が、
自分らしくどう社会と接点を持っていくかについての
大きな心の作業や決断が求められていきます。
それは、住んでいる地域や、両親の状態、夫や子どもの状態によっても変わってくるかもしれない。
今までとは違って、自分一人の努力だけではどうにも立ち行かない状況も起こってきます。
あなたにとっての幸せを見つけていく
どんな母親になろう
どんな家族にしていこう
仕事はこうしていこう
夫とこんな関係でいたい
これらは、子どもの成長に従って、子どもの特性や性格によっても、
そして夫の状況の変化や性格によっても、
その都度、青写真を書き換え、新しい変化を余儀なくされるかもしれない。
けれども、いつも立ち戻りたいのは、
あなたにとっての幸せや、満足はなんでしょうか。
どうすれば、それが、一番叶いそうですか。
ということ。
そんな自分の感覚を大切にした選択をしていけるといい。
ネットやSNSなどで、一見華やかな、目につきやすい、
見えている価値だけに踊らされず、
地位、肩書き、お金、見栄をとっぱらった、
他の誰でもない命そのものの価値というものに、
生まれたての赤ちゃんが身を持って示してくれているように、
ママ自身も、自分の価値をそこに委ねてみる
そんな時間も味わえるといいのかもしれません。
様々な価値観、
自分の親との関係を乗り越えて、自分の未来を切り開く、
そして、豊かにしなやかに子どもを育てていく、
そんな新しい自分に生まれ変わり、成長していく、
ママになるということは、
我慢やつらさもいっぱいあるけれど、
たくさんのチャンスが詰まっていることでもあります。
ママになったことで、
疲れ果てたり、道に迷ったり、迷子になってしまったときには、
ちょっと誰かに話してみたり、
ほんの一瞬だけでも、美味しさや心地よさを味わったり、
自分の呼吸にそっと寄り添ってみたり、
ゴロンとしばらく横になって、ただただ地球の重力を感じてみたり。
あなた自身でいられる何か、自分の感覚を見つけられる何かを、
ほんの些細なことでもいいので、やってみてくださいね。
そして、自分とゆっくり向き合ってみたいという気持ちが少しでもあれば、
どうか尋ねてきてください。